YOLトップ 北海道発トップ 知床特集トップへ戻る
知床特集

知床連載記事

知床の光と影〈4〉 海鳥大量死 風化の懸念

 【油汚染 対応に不安残したまま】

「原因究明に役立てば」とDNA分析に取り組む奥村さん
「原因究明に役立てば」とDNA分析に取り組む奥村さん

 実験器具が所狭しと並ぶ東京農業大(網走市)の研究室。白衣を着た学生がピペットを使い、ガラス板の上の溶液に青色の試薬を落としている。ゼリー状のプレートに溶液をのせて、電流が流れる長方形の装置に収めると大学院生の奥村和弘さん(24)が、ほっとした様子で顔を上げた。

 奥村さんは今春から、斜里町沿岸などでこの冬に見つかった油まみれの海鳥の死骸(しがい)からDNAを抽出し、遺伝子情報を記録する実験に取り組んでいる。町が保管していたエトロフウミスズメとハシブトウミガラスの計4羽を譲り受け、たんぱく質のDNAを電流にかけて分子の大きさを判別する作業。

 「将来、繁殖地の特定に役立つかもしれない。原因究明の可能性が少しでもあるなら、何でもやっておきたい」

 日本野鳥の会オホーツク支部の会員でもある奥村さんは、動機をそう話す。実験結果は、ホームページやデータベースで公開し、できる限りの情報を残しておくつもりだ。

 知床半島を中心とするオホーツク海沿岸に5500羽以上の死骸が漂着した「謎の事件」は、流出源を巡ってサハリン油田や大型タンカーなど、様々な“容疑者”が浮かんだが、いまだに特定されていない。

 道の分析で、大型船舶の燃料などに使われる「C重油」が付着していたことが分かった程度で、原因究明は壁にぶつかったままだ。

 道は先月、サハリン沖を昨年11月下旬に撮影した衛星写真に写った「黒い影」の正体を突き止めようと、外務省を通じてロシア非常事態省に事実関係を照会した。だが、返ってきたのは「こちらも情報を持っていない」というにべもない返事だった。

 衛星写真は、北海道漁業環境保全対策本部が入手したもので、サハリン南東端のテルペニア岬の沖から、西方に扇状に広がる影が確認された。海流の向きや時期などから海鳥の大量死との関連が疑われているが、ロシア側が真相究明に乗り出す気配はない。

 4月にオホーツク海の沿岸調査に参加した日本海難防止協会の大貫伸・上席研究員は、「海上に浮かんだ重油である可能性が高い。この海域に沈船があると、何年にもわたって油が漏れ続け、被害拡大の恐れがある。現地調査を急ぐべきだ」と警告する。網走漁協の北村吉雄・常務理事(60)は「このままでは祖父の前の代から引き継いできたオホーツク海を孫の代まで残していけない」と危惧(きぐ)する。

 地元は、今回のような油汚染事故が起きた場合、対応に不安を抱えたままだ。油漂着時の回収手順や関係機関やボランティアとの連携なども今後の課題。

 「大規模な油流出事故では、現場に大きな穴を掘って回収した油を一時貯蔵するのが一般的。でも、知床にそんな穴を掘る場所があるだろうか」。今月初めに斜里町で開かれた講演会で、第1管区海上保安本部救難課の担当者が問いかけると、聴衆からため息が漏れた。

 そうした中、斜里町は今月7日から、保管していた海鳥の焼却処分を始めた。一部は冷凍保存を続けるが、知床を揺るがした「海鳥大量死」の衝撃は、この先、いや応なしに、過去に押しやられていく。風化を懸念する町環境保全課の増田泰さん(39)は「何があったのか、海鳥はしゃべれない。私たちが原因を突き止める覚悟を持ち続けねばならない」と自らに言い聞かせる。

 リスト一覧へ戻る