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■「世界の宝」満場一致 夢引き継ぎ実現
悲願 歓喜の関係者 知事演説に大きな拍手
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| オホーツク海に夕日が沈む中、世界自然遺産登録決定の知らせを受け、乾杯する人たち(14日午後6時45分、北海道斜里町ウトロで) |
「世界の宝だ」――。北海道・知床の世界自然遺産登録が決まった14日、世界遺産委員会が開かれている南アフリカ・ダーバンの会場では、高橋はるみ知事や斜里町の午来昌町長らが、手を握りあった。朗報を待ちわびた地元も、悲願達成にわいた。登録の実現までには、砂防ダムの是非や漁業規制などを巡る難しい問題もあった。それだけに喜びもひとしお。知床は短い夏の訪れとともに、この日、「世界の知床」になった。
【ダーバン=石原健治】「ハラハラした。心の底から感動しました」。登録が決定した直後、本会議場から出てきた午来斜里町長の顔は、涙でくしゃくしゃだった。高橋はるみ知事と固く握手を交わし「町の漁業を守りながら、しっかりやっていきたい」と未来を見据えた。
登録は満場一致で決まった。地元代表として高橋知事は「知床が人類共有の遺産として評価され、言葉に表せない幸福を感じている。アイヌの人たちをはじめ先人たちが愛した自然をこれからの世代に引き継ぐ」と、各国のユネスコ大使を前にお礼の演説。大きな拍手に包まれた。
報道陣に取り囲まれた高橋知事は「心からお礼を申し上げます。世界遺産に恥じない保全策を講じていきます」と喜びをかみしめるようにコメント。地元に残っていた羅臼町の脇紀美夫町長とは、「課題は多いですが、共に頑張っていきましょう」と携帯電話で喜びを分かち合った。
審査わずか8分
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| 知床の世界遺産登録決定を喜ぶ高橋はるみ・北海道知事(左)と午来昌・斜里町長(14日、南アフリカ・ダーバンで、時事) |
知床の世界遺産審査は、わずか8分ほどで終わった。佐藤禎一・日本ユネスコ代表部大使は「地元のみなさんをはじめ、用意周到な準備のたまものだ」と語った。
本会議の審査はIUCNのデビッド・シェパード保護地域事業部長が知床半島の写真や、シャチやヒグマを頂点とする食物連鎖の図を示してわかりやすく解説。議長が意見を求めるとチリの大使が「熱烈に支持する」、中国の大使が「強く支持したい」と表明。ナイジェリアの大使は「登録に向けて大変よく準備がなされている」と絶賛した。
登録決定後、高橋はるみ知事は会見で、今後2年間で観光と自然の共生を進める知床ルールの策定に全力を挙げることを明らかにし「登録は始まりです。これから保全と地域振興に向けて頑張りたい」と語った。
オホーツクの夕日にバンザイ
◇斜里町
「しれとこ自然村」のキャンプ場では、オホーツク海に沈む夕日を眺めながら宿泊客が缶ビールで乾杯。家族3人で訪れた東京都北区の会社員二木康裕さん(43)は長女の愛海ちゃん(1)と一緒にバンザイ。「娘が大人になっても、この自然がそのまま残っていてほしい」と願いを話した。
毎年知床に来ているという札幌市清田区の団体職員の男性は「仕事を休んで来て良かった。アスファルトの上では感じられない、自然の息づかいを感じられるのが知床の魅力」と話した。
町内のホテルは、宿泊客にたる酒を振る舞ったり、登録を祝う横断幕を掲げたりして祝賀ムードを盛り上げた。愛知県弥富町の無職尾内和雄さん(66)は「知床は海と岸壁からなる景色が素晴らしい。愛知万博を放って北海道まで来て良かった」とほろ酔い気分を楽しんでいた。
斜里町役場に待機していた関根郁雄助役には午後6時45分ごろ、ダーバンの午来昌町長から「決まったよ」と電話があった。関根助役は大きな声で「ありがとうございます。本当によかったですね」と答え、笑みを浮かべた。祝いの花火が数発、町内に鳴り響いた。
寺門清町議会副議長、上野洋司知床斜里町観光協会長らと記者会見した関根助役は「登録は確実と確信していたが、歴史的瞬間に立ち会えてうれしい。改めて気を引き締めて環境問題と産業振興に取り組んでいきたい」と決意を述べた。
◇羅臼町
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| 登録が決定、懸垂幕を町役場前に垂らす脇・羅臼町長(14日午後7時16分、羅臼町役場で) |
羅臼町役場では午後7時5分過ぎ、ダーバンの高橋はるみ知事からの電話を、脇紀美夫町長が受けた。受話器を置いた脇町長は、両手で丸を作り「とにかくよかったの一言に尽きます。このあと、みんなで頑張らなければ」と話した。
役場正面に立てられた登録までの日数を知らせる看板には、脇町長の手で「0」の文字がはめこまれ、役場前の啓発塔には、祝いの垂れ幕が下がった。町民も次々と役場に駆けつけ「世界自然遺産の街」と書かれたのぼりを立てた。
新たな漁業規制認められない 羅臼漁協組合長
羅臼町商工会で開かれた共同記者会見で、羅臼漁協の田中勝博組合長は「浜にさまざまな意見があった中で一応推薦を了承し、町と取り組んできた経緯がある。決まってほっとしている」と喜びを表した。
一方で、海域管理計画へのかかわりについて「海域の拡大、新たな漁業の規制について議論されていくと思うが、環境省、道との間に確認書も交わされているので、従来通り漁業者が自らの取り組みとしてやってきたことを議論すべきで、それから外れることを認めることは出来ない」と話し、新たな漁業規制は認めないという姿勢を改めて強調した。
◆吉報聞くことなく前観光協会長急死
支え合った現会長・辻中氏 行動力振り返り目潤ませ
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| 急死した 阿保薫さん |
「登録の知らせを聞いてほしかった……」
世界遺産になった知床の地元、知床羅臼町観光協会長の辻中義一さん(62)(羅臼町船見町)が目を潤ませた。
頭に浮かぶのは、1月に病気のため、47歳の若さで急死した阿保薫さんのエネルギッシュな姿だ。
羅臼町でサケ・マス定置網漁を営む漁業者だった。その傍ら、町議、観光協会長、町世界遺産登録推進協議会長を務め、急死する前日まで、知床の遺産登録実現のために駆け回った。
知床横断道路ウオーク、知床フォーラムなど、遺産登録実現を応援する催しの場には、必ず阿保さんの姿があった。
「とにかく行動力があり、町のまとめ役だった。国際自然保護連合(IUCN)からの漁業規制の要求にも、前向きにとらえようと、漁業者の間を回っていた」と、辻中さんは阿保さんの功績を振り返る。
2003年2月まで町長を務めていた辻中さんは、1997年、知床を訪問したIUCN世界自然遺産担当幹部のビング・ルーカス氏から「地元が力を合わせれば、実現は可能」と語りかけられた。
「何とかいける」という感触を得て、斜里町と歩調を合わせ、遺産登録に向けて本腰を入れた。
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| 世界遺産登録への道を語る辻中さん |
98年には、両町の有志が世界自然遺産の先輩である屋久島を視察。辻中さんと午来昌・斜里町長が環境省に何度も足を運んで陳情した。両町共催の「世界遺産フォーラム」、羅臼町と屋久島の中学生の交流会などで、運動を盛り上げた。
町長を辞めてからは、取り組みの表舞台は阿保さんにバトンタッチし、若手漁業者などを集めた親睦(しんぼく)会「知会得(シリエトク)」を結成。「世界遺産で一儲(もう)け」という刺激的なキャッチフレーズをあえて掲げ、阿保さんを民間の立場から支えてきた。
それだけに、阿保さんの早すぎる死が悔しくて仕方がない。春に阿保さんの後を継いで観光協会長を引き受け、この日を迎えた。
「自然保護や規制など、課題はこれからも議論されるかもしれない。しかし、世界遺産を生かして潤っていこうという、攻めの姿勢でいきたい」。阿保さんに誓うように、喜びを語った。
◆“先輩”から期待と注文
自然遺産の先輩である屋久島(鹿児島県)と白神山地(秋田、青森県)の関係者からは、期待と注文が寄せられた。
◇写真家・屋久杉自然館長 日下田紀三さん(64)
観光客は遺産登録後、1年で1割弱ぐらい増えたが、その後の調査でも、島の自然は全体的に優れた保存状態にあるとされた。
ただ、遺産登録後は、屋久島に行くことは、屋久杉を訪ねることになり、漁業や農業など様々な面がある島の姿が見えづらくなった。「体力がないんだけど、島に行けるだろうか」と聞かれる。それは、10時間ぐらい歩いて縄文杉を見るということで、屋久島イコール屋久杉となった。
その結果、有名な場所に人が集中。島全体の自然を見渡すと、点と線の狭い範囲にプレッシャーがかかるようになった。
観光の影響という面では、知床は屋久島とは違い、以前から大観光地として鍛えられている。だが、苦労はあるだろう。多くの観光客に、自然にプレッシャーをかけないで、知床の価値を知ってもらうことが求められるからだ。
漁業問題についても、資源の継続性を考え、自然との見合いを探らねばならない。産業と自然の保全。観光も含めて、どうやって折り合いをつけるかが課題であり、知床方式といえるものを打ち出してほしい。
手放しで喜べぬ利権が混乱招く
◇白神を見守り続けるフリーライター 根深誠さん(58)
世界遺産に登録されると、大多数の人は喜ぶだろう。全く自然に縁のなかった人まで、関心を示すようになる。知床が広く知れ渡るからいいのではないかと見る向きもあるが、手放しで喜んでばかりいられない。なぜなら、そこには自然に対するまなざしが欠落しているからだ。
日本の現状を見ていると、本当は、自然のことを考えているのではなく、経済効果を狙っているのではないかと疑いたくなる。
経済効果は真っ向から否定すべきことではないが、白神山地の例を見ていると、救いがたいものがある。様々な利権にほんろうされ、混乱を招く。ブナ林が広がる白神山地の自然の豊かさに比べて、「世界遺産」を取り巻く側の人たちには、貧相で虚偽に満ちた言動が多かった。
知床には、そうあってほしくない。自然観を養い、環境保全、産業、観光などあらゆる面について、いかにして合意形成をなすかが大切だ。
【関係者の喜びの声】
小池百合子・環境相
この度、知床が人類全体の宝として、我が国で13番目の世界遺産に登録されることが決定したことを大変うれしく思う。貴重な自然が今日まで受け継がれてきたのは、地域の方々や関係各位の高い意識と地道な取り組みによるもので、ご尽力に心から敬意を表する。世界遺産はその登録が最終目的ではなく、将来にわたって保全し、持続的に活用していくことが重要だ。
脇紀美夫・羅臼町長
大変うれしい限りで、この喜びを町民とともに共有したい。登録決定までに多くの課題もあったが、地元漁業者をはじめ、町民皆さまのご理解とご支援、そして全国からの熱いご声援に心から感謝を申し上げる。世界自然遺産の登録は「知床新時代」の幕開けだ。羅臼町としては、多くの先輩たちが培ってきた「知床」の自然を守る取り組みを、斜里町とともに続け、「知床の豊かな恵みと美しさを全人類のために後世に伝える」という新しい使命の実現に向けて、今後一層の努力を積み重ねていく。
午来昌・斜里町長
斜里町はこれまで「みどりと人間の調和を求めて」という町政の柱のもと、しれとこ100平方メートル運動をはじめとする様々な環境施策を進めてきたが、多くの人々の努力によって知床の世界自然遺産登録が実現したと受け止めている。登録を節目に、知床の自然環境の保全と適正な利用、さらには漁業者をはじめとしたこの地で暮らす人にとって世界遺産が有益となるよう、これまで以上に努力しなければならないと気持ちを新たにしている。ご尽力をいただいた皆さまに深く感謝申し上げる。
佐藤謙・北海道自然保護協会会長
最低限のラインで登録されたと考えている。屋久島や白神山地を見ても、日本は「保護」よりも「利用(観光)」を優先する傾向が強い。ダムなどには改善を求められている。世界自然遺産に見合う高い保護を実現してほしい。
我孫子健一・北海道観光連盟会長
世界遺産登録は誠に喜ばしい。環境問題に工夫を凝らしている点も評価されたのだと思う。道内全体が環境に取り組む契機になると思うし、近年伸び悩む道内の観光客誘致の起爆剤になることを期待している。
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