「日本一」が育てた甘み
羊肉愛好家にとって、待ち遠しい「ミルクラム」の季節がやってきた。離乳前の「乳飲み」羊のことで、各生産者とも出荷できる頭数はごくわずか。春の限られた時期にしか食べられない、希少な旬味だ。
そのミルクラム料理に定評があるのが、札幌宮の森のフランス料理店「ラ・サンテ」。オーナーシェフの高橋毅さん(44)は1994年の開店以来、北海道の食材や生産者と向き合い、素材が力強く響く味わい深い料理を紡いできた。道産羊肉は同店の魅力を伝える看板料理のひとつ。ミルクラムは入荷数僅少(きんしょう)のため、早めの問い合わせ、予約をお勧めしたい。
道産羊の生産者、飼育頭数は年々増えているが、その多くは東京方面に出荷され、北海道で道産羊を味わえる機会はまだ少ない。高橋さんは地道に牧場を訪ね歩き、これぞと思う生産者との絆(きずな)を深めてきた。羊肉を扱う度に感想を伝え、それを参考に生産者が飼育方法を研究する。道産のラムはもちろん、希少なミルクラムの入荷があるのも、その信頼関係があってこそだ。
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| 繊細な肉質を生かすため、火加減に細心の注意を払う高橋シェフ |
ここ数年のミルクラムは、高橋さんが「日本一の羊飼い」と称賛する、足寄町の石田めん羊牧場産を使う。多くの牧場が早熟早肥なサフォーク種を生産する中、場主の石田直久さんは飼育に手間がかかるが、サウスダウン種にこだわる。羊肉の王様といわれるこの品種に他品種を掛け合わせ、理想の羊づくりを目指す、高橋さんいわく「情熱と信念の羊飼い」である。
大切に育てられたミルクラムが届くと、高橋さんは脂のつき具合、色、香りなどを確かめながら、ほんの少量を焼いて試食。舌にその味を記憶させ、調理のイマジネーションを広げていくという。あとはオーダーごとに肉を切って、やさしくシンプルに焼くだけ。
テーブルに運ばれた「ミルクラムの背肉、フィレ肉、モモ肉のロースト」は、とても淡くきれいな色。肉質はやわらかで、独特のラムの香りはなく、ミルクの甘さをほんのり感じる。
ソースには、さばいた骨や筋を煮出したミルクラムのエッセンスを用意し、そこにロースト時の焼き汁を加える。主役で使う以外の部位をも生かしたこの料理には、「命を無駄なくきっちり調理し、お客様に喜んでもらいたい」という、シェフの思いが反映されている。
小さな命に感謝しながらおいしく完食。春の名残と初夏の訪れを感じさせるミルクラムの味わい。羊肉にも季節感があるのだ。
(フリーライター 小西 由稀)