身ふっくら 春仕立て
「春の訪れを感じさせる北海道の魚といえば、やはりサクラマスです」。そう答えるのは、味処「こなから」の店主、小割茂樹さん(39)。今年開店5年目を迎え、多彩な酒肴(しゅこう)と地酒が評判を集める実力店である。
初冬から始まったサクラマス漁は、春の日差しとともにいよいよ本格化。漁期初めはまだ小ぶりだったが、「さばく度に脂のりが良くなるのがわかる」ほど、身がふっくらしてきたという。その名の由来通り、桜の時期に旬を迎える。
サケマスの種類が多い北海道だが、サクラマスは「もっとも味がきれい」と、小割さん。「背にまでさしが入りますが、くどさがない。やわらかな食感で甘味がある。食べるのも料理をするのも、好きな魚ですね」
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| 「形にこだわらず、好きなものを楽しんでほしい」と、小割さん |
こなからでは、毎年いくつかのサクラマス料理を提案しているが、この春の新作は「桜ますタタキ山菜と清見オレンジとぽん酢のジュレ」。海と山の恵みをサラダ仕立てにしたひと皿だ。
サクラマスは塩と砂糖で脱水し、酢で20分ほど締め、一晩寝かせることで、うま味を凝縮させた。皮目だけを香ばしく焼き、タタキにした身の色が実に美しい。
山菜は軽くゆで、ダシに浸すひと手間を加え、食感とうま味が生きてくる。山菜の下に敷いた若く軟らかい真コンブの細切りは、小割さんの故郷である函館・南茅部産だという。
清見オレンジは、温州みかんとオレンジをかけ合わせた本州産の品種で、ちょうど今が出盛り。自家製のポン酢と合わせ、軟らかなゼリー状にしたジュレを添え、ドレッシングにもさわやかな柑橘(かんきつ)系の香りを生かした。最初は意外に思ったが、サクラマスにも山菜にもよく合う。
「見た目にも味わいにも、春を表現したかった」という狙い通り、口にも心にも春を運ぶ技ありの逸品だ。
放流などで増殖事業を行っているサクラマスだが、漁獲はまだ少ない高価な魚。「家庭では食べる機会が少ない魚なので、炭火焼きやタタキなど、幅広くおいしさを楽しんでもらいたい」と語る。
桜前線が道東に達し、トキシラズ漁が本格化するころまで、サクラマス料理を堪能できる。
(フリーライター 小西由稀)